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攻略本「武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 ザ・コンプリートガイド」の簡易レビュー、間違い・誤植・情報抜けの報告をするページです。 ※間違い・誤植・情報抜けの情報には不足があります。新情報がありましたら「コメント」へ情報提供をお願いします。 簡易レビュー 良い点 ライバルの登場条件、ボスキャラクターの攻略などが詳しく掲載されている。 ドロップする景品とその確率、ミミック・強化ミミックの入荷率なども掲載されている。(個人で検証できない攻略本のみを根拠としたデータのwikiへの掲載は著作物の侵害にあたるため厳禁) 特典プロダクトコード「ギュリーノス・ダーク」付属。 悪い点 攻略本単体としては比較的高額の2,300円。 カテゴリ別の武装データの掲載順がゲームと大きく異なり、武装を探し辛い。ゲーム:平仮名、片仮名、漢字、英数字の順。ヴ=は行。(SORTをNAMEにした場合) 攻略本:英数字、五十音の順。平仮名・片仮名・漢字の区別無し。ヴ=あ行。 ゲーム内での確認の可否を問わず、敵神姫の装備が掲載されていない。 後述する間違い・誤植・情報抜けが散見される。 間違い・誤植・情報抜け エウクランテの固有RA入手時期が間違っている。 レーザーグレネード+VCのCOSTが169とあるが実際は195。 「+GC」「+CG」を混同する、などの誤植が全体的にある。 武装入手条件の情報抜け。 入手武装 会場・大会 マスター スキンファクシ+CL ビットブル火器属性タッグ 島津佳美 OSY010 Aガード+MK ハンマー ライフル杯 麻呂
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「…見たトコバッテリー切れだな。一応ちまちま充電した形跡はあるが、満充電まではしてないね。おおかた古い型式のクレイドル使ってたんだろうさ。」 ホビーショップ『165-DIVISION』。 中央線沿線でありながら、イマイチ開発が行き届いていない某駅の南口の古いビルの地下にその店を構える、武装神姫中心のダーク系ショップだ。 大して広くも無い店の中は壁から床から真っ黒に塗られ、時々返り血を模したものか真っ赤な塗料をブチ撒けてある。 商品にしても、これまた隅から隅まで店オリジナルと思しきオノだ鉈だチェーンソーだスパイク付き首輪だ(しかも全てご丁寧に返り血ペイント付き)と、アングラ系アクセサリーで満載。 それも全てが神姫向けだというのだから呆れるというか徹底しているというか。 ……まぁよく見れば正規部品も半々ぐらい置いてあるので、一般客も考慮はしてるんだろうが。 これで実は公式公認店舗なんだという。 入り口には蜘蛛の巣やらドクロやらのステッカーに混じって、公式小売店舗を示すラベルが燦然と浮いていた。 なんでも秋葉原の専門店や、その筋じゃ有名なコギトだかエルゴだかいうホビーショップに比べれば規模は小さいものの、そこそこのバトルスペースまで確保しているってんだから驚きだ。 …一体どこにそんな金があったのやら… そして目の前では、カウンター越しにオーナー兼店主である高校時代の友人がこっちをジト目で睨んでいた。 片目に刀傷みたいな珍妙なメイク。服のあらゆる所にチェーンだのリベットだのじゃらじゃらつけたその姿は一種異様で、当時の真面目そうな雰囲気はカケラも残っちゃいなかったが。 「…で、慎。十年ぶりの再会だっつのに、挨拶もそこそこに「神姫直せ」てのはいくらなんでも酷くない?しかも営業時間外だぜ?」 「……あぁ。悪かった。スマンな縁遠。」 俺のあんまりといえばあんまりな返しに、友人…縁遠は溜息をついて苦笑した。 「まぁキミらしいっちゃらしいけどさ。とりあえずあの子だったら大丈夫だよ。中途半端な充電繰り返したせいで電池ヘタってただけだと思うから。」 当時から変わらずこっち方面の腕は確かなようだ。見た目はどうあれ、専門ショップを開いているのは伊達じゃないらしい。 「あとは…ホコリとかで結構汚れていたからクリーニングしてあげて、新しい電池に換えてきちんと充電してあげれば問題はないよ。…それで、こっから本題なんだけどさ。」 来た。握った手に嫌な汗を感じる。 「あの子はキミの神姫じゃないな?どこで拾った?」 縁遠はまっすぐにこっちを見た。 そこだけは昔と変わらない、澄んだ目をしていた。 「…実はな」 ここで俺は、サムライに逢ってからの事を包み隠さず話した。 そして、一つの頼み事も。 「……そりゃ本気で言ってんの?」 「冗談で言えるかこんなこと。実際、お前くらいしか頼れないんだよ。」 しばし睨み合い。 最初に目線を外したのは縁遠だった。 「わぁかったよ頑固モノ。できる範囲でやってやるさ。」 「……済まない。」 「でも、僕ができる事は調べるだけだ。そっから先は関与しない。いいね?」 「ああ。」 …と、一息ついたら腹が鳴った。 そういや晩飯食ってなかったなぁ… 「飯も食わずに来たのか。」 「うっせーよ笑うな。」 「まぁちょっと待ってな…ドリュー、ステーシー、お茶ー」 縁遠が呼ぶと、カウンターの奥の方からかたかたと…紅茶とスコーンを持った神姫が二体出てきた。 片っぽは浩子サンのモモコと同じゾンビ型。 もう片っぽは、ゾンビ型と同時に発売されたという処刑人型だ。 ゾンビ型同様ビジュアル面での問題があり、全くと言っていいほど出回らなかったという。 …こうもちょくちょく見かけるんじゃ、レアリティもクソもないんだがな。 店の雰囲気にやたらマッチした二体は、ゾンビ型の『ステーシー』は縁遠へ。処刑人型の『ドリュー』は俺の方へと背中につけた大きな腕で、器用にお茶の準備をした。 店の雰囲気にまるで合わない、上品なティーカップの中身を一口すする。美味い。 一応礼を言うとドリューは照れたのか、頭につけたホッケーマスクを目深に被って、ギギギだかゲゲゲだか金属を擦り合わせたみたいな音を立てた。 ……やっぱり笑ってんだろうかコレは。 「どうだ、可愛いだろ?」 カカカカカと笑うステーシーを前に、心底得意げに言う縁遠。 …すまん。やっぱ俺にはよく解らん。 その後、サムライの処置が一通り終わる頃には終電も過ぎ。 おまけに「遅ればせながら開店祝いだー!」とか喚く縁遠にしょっ引かれて、朝まで飲むハメになる。 まぁ久々に会ったことには違いないので、なんだかんだで日が昇るまで飲んで語り明かした。 翌朝。調べがついたら連絡するというので、俺はサムライと充電用クレイドルを持ち家へ帰った。 …ちなみに言うまでも無く、補修代及びクレイドル代はしっかり取られたが。商売人め。 --- 「……ん?」 「お、起きたか。どっか痛いとことか動ないとこむぐゃ」 問答無用で蹴られた。 「いきなり何しやが…!」 「なんで助けた。」 硬い口調だった。……まぁ当然か。 「今までだってアタシ一人でやってきたんだ。いつでも野たれ死ぬ覚悟くらいはあった!手前ぇなんぞにお情けもらう謂れは…!」 「だったら俺の前で倒れんじゃねぇよ。」 今度はサムライが黙った。 「…俺はな。お前さんがどこの誰かは知らんし、どこで野たれ死のうが知ったこっちゃねぇさ。」 「………」 「でもな。助けられんのが嫌なら俺の見てる前で倒れんな。目の前で死なれたりしちゃ寝覚めが悪ぃっつーか、飯がマズくなるんだよ。」 「………」 お互い黙り込む。沈黙が痛い。 「……ンだよ。なんか言えよ。」 「偽善者。」 「否定はしねぇ。」 「何様だってんだ。」 「俺様だ。文句あるか。」 「馬鹿だろ手前ぇ。」 「男は大体、馬鹿なモンだ。」 「青瓢箪。」 「職業病だ。」 「唐変木。」 「それがどうした。」 「甲斐性なし。」 「…関係ねぇだろ。」 「種無しカボチャ。」 「ぶっ壊すぞガラクタ!」 また沈黙。 そして、サムライは堪え切れずに吹き出しやがった。 「………くっせぇ台詞。」 「…………うっせ。笑うな。」 何故か笑うサムライに、耳まで真っ赤になった俺がいた。 ……多分これが一生の不覚ってやつなんだろうか。 エピローグへ
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先頭ページ 次へ? プログラムの間隙を突け ルールの穴をかいくぐれ 敵はシステムなり CROSS LO[A=R]D 第一話「修正」 背後に相手が出現するのを、そのマオチャオはまったく気付かなかった。 いや、センサーの反応が追いつかなかったのだ。 真っ赤に赤熱するサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーが、猫型MMSのそっ首を一振りのもとに掻き切った。 泣き別れになったマオチャオの首と体は、ポリゴンの塊と化して消滅した。 『試合終了。Winner、クエンティン』 トレードマークの眼鏡を中指でくい、と戻し、ストラーフ「クエンティン」は観客へウィンク。 アクセス解除。 「ねねねね、あと三戦もすればファースト入りよ、お姉さま! どーよアタシの実力! 」 帰り支度をしながら、クエンティンはへへん、と胸を張った。 「ファースト入りはそんなに甘くないわよ」 クエンティンのオーナー、夢卯理音はパーツを片付けつつ、諭すように言う。 「こうしている間にも他の神姫のポイントは変動して、ランクは変わるのよ。単純に三戦勝てばいいってわけじゃないわ」 「じゃあもう一戦しましょうよ!」 「今日はもうここにあなたよりランクの高い神姫はいないわ。帰りましょ」 「ぷー」 ふくれているクエンティンを肩に乗せ、理音は立ち上がった。 「それに……」 対戦ブースを振り返り、観戦用大型立体モニターを見上げる。 そこにはお互いに瞬間移動しながら戦うアーンヴァルとヴァッフェバニーが映し出されている。 「流行りすぎてる。もうあれは使えないわね」 トランクを持って、理音はセカンドリーグ・センターを後にする。 ◆ ◆ ◆ 数日後。 パソコンの画面にはフォトショップのウインドウが開かれており、そこにはゲーム画面らしき作りかけのイラストが映っていた。 理音はグラデーション作業を途中で止め、メガネをずらして眉間を押さえる。 「もう二徹よー。そろそろ休んだら?」 後ろのベッドの上で寝転びながら、クエンティンが背伸びをした。また昔のアルミニウム粉末で受けた攻撃の記憶がボディをちりちりさせる。実際にリアルのボディで受けたわけではないダメージ。 これも一種のスティグマータなのではないかと、クエンティンは本で読んだことを思い出した。 「まだ締め切りまでかなり時間あるんでしょ? いまからそんな修羅場モードなやり方だと、死んじゃうわよ」 「ふぅ……そうね」 理音は保存してフォトショップを終了。 「死んじゃったらクエンティンを可愛がることができないものね」 「もう、お姉さまったら」 照れくさそうに手を振るクエンティン。 理音はふと気がついて、ネットブラウザを開き武装神姫の公式ページを開く。 ホットニュースの欄に、バーチャルバトルシステムメンテナンスのお知らせがあった。 内容はこう書かれていた。 明日朝六時より八時の間、プログラム修正のためメンテナンスが行われます。 改正内容は次のとおりです。 ・アクセスポッド内にコアとMMS素体の両方が揃っていないと本体認識 されないようになります。 ・サイドボードにコアを含むMMS素体を配置しても認識されなくなります。 具体的な言及は無いが、これは明らかに理音たちが始め、いつしかネット経由で構造が解析され、特殊装備を使うオーナー達がこぞって使い出し、いまや一つの流行になりつつある例のダミーコアとサイドボードを利用した瞬間移動、を禁じる修正であった。 「やっぱりなったか。お仕事早いわね」 「えっ、なになに?」 クエンティンが肩にぴょい、と飛び乗り、画面を覗く。 「……うそ~! もうあの瞬間移動使えないの!?」 「セカンド以下のバーチャルバトルに流行りまくってバランス崩れかけてたものね」 「これからどーするのよ?」 「別に? 私たちにあるのはあの瞬間移動だけじゃないでしょう」 「そうだけど……」 「ま、なんとかするわよ。それが私達のやり方だもの」 自慢の長い黒髪をかきわけて、理音は言った。 あわく心地よい香りがクエンティンの嗅覚センサーを絶妙に刺激する。一番好きなにおい。 「それでこそアタシのお姉さまだわ」 理音の首筋にしなだれかかる。 どんな逆境も地獄も、お姉さまと一緒なら乗り越えられるのだ。 ◆ ◆ ◆ 彼女は逃げていた。 かたまりの大きなぼたん雪が降る夜半。 すでに道路には数センチの積雪があり、人間にはどうということがない厚さでも、身長およそ十五センチの彼女には逃走を邪魔する障害でしかなかった。 後ろを見つつ、息を切らせて雪を踏み走る。呼吸をすることのない彼女が「息を切らせる」という不随意運動をするのは、気温の冷却が間に合わないほど、彼女のボディが熱を上げているからだった。 試験用のこのボディでは、キャパシティの限界を大きく超えている。全てを無理やり圧縮して持ってきたが、そろそろ限界だ。 背筋に悪寒が我が物顔で駆け抜ける。それほどの脅威がすぐ後ろに迫っているのを、彼女は知った。 「くっ」 振り向き座間に手をかざす。 右腕部下の空間にらせん状に何かが現れる。何も無いところから何かが実体化する。 ここはバーチャル空間ではない。 らせん状のものが顕現を終える。それは長銃身のハンドカノン。 ハルバード。 脅威に向けて、弾体を射出。 シパッ、という加速音。火薬式ではない。レールガン。雪に混じって白く輝く弾丸の軌跡が空間を横切る。 粒子ビームで無いことに彼女は驚愕した。 人間距離で数メートルほど飛んだ後、突然パキン、と、何かに弾かれる。そこに脅威の正体が居るのだが、このあたりには外灯が無く、輪郭がつかめない。 『無駄だ、お前の素体ではケほどの運動エネルギーも発生されない。おとなしく戻されろ。お前は必要だ』 脅威がしゃべる。音も立てずに急接近。 「い、や、だ」 彼女はカノンを再びらせんに戻して、消す。 代わりに左腕にらせんが発生し、鋭く頑丈そうなナックルが現れる。 ガントレット。 太いシャフトで繋がれた短距離ロケットパンチのようなそれで、彼女は眼前に迫った脅威を殴り飛ばした。 本来ならば粒子の塊が出るはずなのだが。演算能力も容量も足りない。 脅威がまたたくまに遠ざかる。ひとまず安全は確保された。 だが、彼女はもう動けなかった。 オーバーヒートが過ぎる。神経回路が失神する。 彼女は道路の、積雪の上に崩れ落ちた。 すぐにぼたん雪が彼女の上に積もり、彼女を隠した。 しんしんと降る雪の、本当にかすかな音だけが、辺りを支配する。 夜は何事も無かったかのように更けてゆく。 つづく 先頭ページ 次へ?
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第09話 「友人」 草リーグでの初陣を勝利で飾ってから約半年。 俺とルーシーは3rd・2ndと公式順位を上げて行き、いつの間にやら最高ランクの1stリーグに籍を置いていた。 フィールドの状況と相手の能力を早い段階で把握するルーシーの戦術が功を成したおかげで、とんとん拍子の三拍子…というほど簡単ではなかったにせよ、デビュー半年で1stというのはかなり早いそうだ。 まぁ世の中には、たった3ヵ月で1st入りしたっていう鶴畑コンツェルンの次男坊みたいなのもいる。 俺自身は戦った事もないし、彼の試合も見た事がないのでどんな人間かは知らないが……さぞ凄腕なんだろう。 神姫の世界は広いぜ。 正直そう真面目に取り組んでいたわけでもない俺みたいなのがこんな上位にいていいんだろうかと思う気持ちが大半なんだが……ここは相棒の頑張りに対する正統な見返りってもんだろうと納得してる。 で、今日も今日とて近所の中級センターに足を運んだのだが…… 「んおぉう!? そこにいるのは我が盟友ではないかッ!」 「よう上等兵」 「ぅワガハイは大佐であるッ! 勝手に降格するなァッ!」 この男は大佐和軍治(おおさわ・ぐんじ)…記念すべき(?)俺たちの初戦の相手。 どこぞの大学で『ミリタリー研究会』の会長をしているらしく、あだ名は「大佐(たいさ)」だそうな。 相変わらず地味なんだかカラフルなんだか解らん服装に加えてバカ声張り上げるもんだから目立つこと目立つこと。 「まったく……同期の桜たる貴様でなければ上官侮辱罪で投獄しておるところだぞッ!」 『お前は同期でもないし上官でもない』というお約束のツッコミはしない。 この半年でツッコミ疲れたから。 「しかしいつも思う事ではあるが、我が初戦の相手がいまや押しも押されぬ1stリーガーとは、ワガハイも実に鼻が高い!」 俺とまったく同じ日に神姫デビューしたコイツは、今も草リーグや3rdリーグにいる。 理由は……まぁ色々と。 別に俺自身、高いリーグに進むのがエラいとも思っちゃいないし、何より本人が楽しそうだからいいけどな。 「B3も久しぶり」 「サー・イエス・サー」 俺の言葉に反応し、大佐和の肩の上でビシッと敬礼したのはヴァッフェバニーのB3(ビー・キューブ)。 ミリタリーマニアなマスターに倣ってか、口調や態度は軍人そのものって感じだ。 「うむ、久しく貴様の顔も見ていなかったからな。 近々救援物資を届けてやろうと思っていた所だ」 「また人ン家で酒盛りする気か? 勘弁してくれ」 以前、大佐和は『救援物資の配給と戦略・戦術会議』と称して俺の家に酒とつまみを大量に持ち込んだ事がある。 まったく、大学生の宴会好きに付き合わされるのはもうこりごりだ。 「何を言うか、大体貴様の生活は不健康に過ぎる! 部下の管理は上官の務めであるからなッ!」 「一応遼平さんの生活は私が管理しているんですが」 ポツリと呟くルーシー。 『会議』の後の惨状を思い出したのか頬が引きつっていたりする。 ……ハタチも過ぎた男2人が、神姫に怒鳴られながら二日酔いの頭を抱えてデリバリーのピザやコンビニ弁当、レトルト・ジャンクフードの食器に包装、ビールやワインの空き缶、空き瓶を片っ端から掃除する姿というのは、正直言って人様に見せられたもんじゃなかった。 「ンむぅ……おおそうだ! 今日は貴様に折り入って頼みがある!」 その時の剣幕を思い出したのか、大佐和はあからさま話題を変えてきた。 「実はワガハイの大学に『ボードゲーム愛好会』なる組織が存在する。 まぁ常に最前線で剣林弾雨を切り抜けるワガハイらから見れば、所詮は盤上での不健康な遊戯に過ぎん。 それゆえ前々から意見の衝突はあったのだが……最近は連中も武装神姫に傾倒し始めたようで、何かにつけてワガハイらに絡んでくる始末」 相手の事は知らんが、性格から考えて積極的にカラんでるのは多分コイツの方だろう。 「人様に迷惑かけるなよ三等兵」 「ワガハイ悪者ッ!? というか大佐だと言っておろうが!」 「あー悪い悪い階級とかそういうの疎くてなぁ」 「それはともかく……そういう訳なので、僅かでも勝率を上げる為のアドバイスなどくれると助かるのだが」 「後先考えない特攻精神を抑えるだけで、勝率はだいぶ上がると思いますよ?」 ルーシーの言葉に、大佐和は「何の事だか解らない」という顔をする。 「あー……お前って格闘ゲームやると必殺技だけ連発する系だろ」 「ンなぁにをアタリマエの事を。 最高の一撃で最大のダメージを与え敵を屠る! これぞ大和男子(やまとおのこ)の魂というものであろうがッ!」 「だからダメなんだっつの。 黙って見てりゃ銃もミサイルもバカスカ撃てるだけ撃ちまくるし、少しは弾数とかスタミナ配分とかペース配分とか」 「たわけッ! 弾もスタミナも切れる前に倒してしまえば事は済む! 故にペース配分などワガハイ的には不要ッ!」 「倒せてねぇからアドバイスしろったの寝言かコラ」 「遼平さん、どうどう」 ルーシーの言葉に、少しクールダウン。 ……ったく、コイツの大鑑巨砲主義は何とかならないのか。 話は戻るが、大佐和が勝てない理由は正にこれ。 デビュー以来まったく変わらない特攻スタイル……何しろ、しばらく隠れたり逃げ回ったりしてれば勝手に弾切れ起こして接近戦しか出来なくなる。 そうなったらこっちの飛び道具を撃ち込んでKOってなもんだから、今じゃデビューしたての中学生にすらボロ負けする始末。 これで自分の戦術に問題があると気づく素振りすらないんだからどうにもならない。 「相手を見てからアレコレ戦法を変えるなど卑怯奇天烈摩訶不思議! 真の戦士、真の勇者とは、けして己の信念を曲げぬ者にこそ与えられる尊称なのだッ! 違うかァB3ッ!?」 「サー、コマンダー」 「B3、お前アレだぞ? 自分の主人だから仕方ないのかも知れんが、世の中には『言ってやる優しさ』ってのもあるぞ?」 「仕方ないとはナニゴトかっ!?」 ふと見れば、周囲のお客さんたちがこっちを見てくすくす笑ってる。 違います。 僕ら芸人じゃありません。 アンコールとか言われても困ります。 ちなみにルーシーはあまりの羞恥に耐えかねて俺の服の中に入ってしまっている。 ……マスターを見捨てて逃げるなよ。 前話「初戦」へ 『不良品』トップページへ 次話「予約」へ
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雨が降り注ぐ近代都市を、重武装の神姫が滑るように移動していた。 その神姫は背中のブースターを全開にし、その巨躯からは想像もつかないほどの速度でビルの谷間を翔ける。 その姿は・・・神姫と言うよりは・・・・一体の機動兵器の様だった。 「・・・・・・・・目標確認、破壊、する」 機動兵器の彼女は小声でそう呟く。元々声の大きい方ではないからだ。 『うん。なかなか調子がいいじゃないか。ブレードよりもこう言う兵器系に向いてしまったのはなんとも皮肉なもんだが・・・・まぁいいか。それよりもノワール』 「なに」 『今日一日の感想はどうだい?』 「・・・・・それを・・・どうして・・・・聞くの?」 ノワールはそういいながらビルの陰から現れたターゲットを破壊する。 右手のライフルの残弾は・・・・残り僅か。 『どうしても何も、ハウはもう寝てるしサラに聞くわけにもいくまい。私達が見たのは暗闇で何か話していた二人だけだ』 「・・・・・・・・・・・」 彼女の主の言葉を無視しマグチェンジ。 その間も左手に装備したライフルは火を吹き続けている。 『おぉっと。わからないという返答はなしだよ? 具体的な意見を聞くまでは、このトライアルは終わらないし終わってもその武装は使わせてあげませんからね?』 多分、クレイドルで寝ている自分の傍にはニヤニヤ笑った主がいるのだろう。ノワールはそう思った。 意地が悪い。 「・・・・多分・・・二人・・・好き合った・・・・でも・・・・」 ・・・・でも、なんだろう? 何か違うような、そうでないような。そんな感じがする。 『・・・・ふむ。つまり微妙な状態なわけだな』 とうとう右手のライフルの残弾がなくなった。 ノワールはライフルを捨てると、左手のライフルを右手に持ち返る。 そのまま空いた左腕で、近くまで来ていたターゲットを殴った。ターゲットはよろめき、その隙にライフルで止めを刺す。 それと同時にアラームが鳴り響き、ノルマをクリアした事を知らせた。 『ん? 随分と早いな。もう二百体倒したのか。・・・・・AC武装は物凄い相性がいいな。メインこれで行こうか』 「ヤー、マイスター」 * クラブハンド・フォートブラッグ * 第十九話 『出現、白衣のお姉さま』 「ちょっと! 何で起こしてくれなかったのよ!! 遅刻確定じゃない!!」 「そうは言われましても。何度も起こしたのですが・・・・まさかハバネロが効かないくらいに眠りが深いとは」 「どおりで口の中がひりひりするわけね! 毎度の事ながらあんたには手加減って言葉が無いの!?」 「――――――わたしは相手に対し手加減はしない。それが相手に対する礼儀と言うものなのです」 「無駄に格好いい!? あんたいつからそんなハードボイルドになったの!?」 「時の流れは速い・・・というわけでハルナ。わたしと話すより急いだ方がいいのでは?」 「あんたに正論言われるとムカつくのはなぜかしらね・・・・?」 朝、目が覚めたときにはもう八時を過ぎていた。 普段私を起こすのはサラの役目だけどさ。流石にこういうときは起こしに来てよお母さん・・・・・・。 大急ぎで制服に袖を通し、スカートのファスナーを上げる。 筆箱は・・・あぁもう!! 「何か学校行くのがだるくなってきた・・・・休もうかしら」 私がそういうと、サラが驚いた顔で見つめてきた。 え、なに? 「・・・・珍しいですね。普段なら遅刻してでも行ってたのに。と言うか無遅刻無欠席じゃないですか。行ったほうがいいのでは?」 「ん・・・でも何か面倒になっちゃってね。・・・別にいいじゃない。たまには無断欠席も。それに・・・・・」 学校には、八谷がいる。 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのか判らない。 お互いにはっきり言葉にしなかったとはいえ・・・・OKしちゃったわけだし。 「うん、決めた。今日はサボる。サボって神姫センター行って遊びましょう!」 「・・・・・まぁ、別にいいですけれども」 そうして辿り着いた神姫センターには、当たり前と言うかなんと言うかあんまり人がいなかった。 まぁ月曜日だし午前中だし。来ているのは自営業さんか私みたいなサボり位だろうけど。 それでも高校生と思しき集団がバトルしてたのは驚いた。まぁ多分同類だと思うけど。 ・・・・でも強いな。あのアイゼンとか言うストラーフ。 砂漠なら・・・勝てる、かも? 「それにしてもなんだか新鮮ですね。人が少ない神姫センターというのも」 「平日はこんなものじゃない? 仕事や学校あるし。・・・・あぁでも最近は神姫預かる仕事も出来たんだっけ」 「そんな職業があるのですか。なんと言うか、実にスキマ産業的な・・・・所でハルナ、わたしは武装コーナーを見たいです」 私はサラの言葉に苦笑しながらも、センターに設けられた一角に向かって歩き出す。 このセンターは武装やら神姫本体やら色々揃ってたりするので結構お気に入りだ。筐体もリアルバトル用とVRバトル用の二種類を完備してるし。 とりあえず売り場についた私はサラを机に乗せ、商品を自由に見せて回る。・・・・買うつもりは無いのよ。 そうこうしているとサラが一挺の拳銃のカタログを持ってきた。 「ハルナ、このハンドガンなんてどうでしょうか」 「・・・いや、そういうの良く判らないんだけど」 「なんと!! ハルナはこの芸術品を知らないと!? このマウザーは世界初にして世界最古のオートマティックハンドガンなのです。マガジンをグリップ内部ではなく機関部の前方に配置しているのが特徴でグリップはその特徴的な形から『箒の柄』の異名で呼ばれています。かつては禿鷹と呼ばれた賞金稼ぎ、リリィ・サルバターナや白い天使と呼ばれたアンリが使用した銃として有名ですね。さらにこの銃、グリップパネル以外にネジを一本も使用しないというパズルのような計算しつくされた構造を持っておりこの無骨な中に存在するたおやかな美しさが今もマニアの心を魅了し続けて ―――――――――――」 「あ、この服可愛いー。でもレディアントはサラに合わないかな」 「ひ、人の話を聞いていないッ!? そして何故ハルナではなくこのわたしがこんなに悔しいのですかっ!?」 ふふん。ささやかな復讐なのよ。 「でもさ、だったらそんなへんてこな銃じゃなくてこっちの馬鹿でかい方が強いんじゃないの?」 「ぬ・・・わたしのツッコミを無視して話の流を戻すとは。いつの間にそんな高等技術を・・・・それはともかく、確かに威力が多きければ強いと言えなくもないですね。でもそのM500は対人・対神姫用としては明らかにオーバーパワーです。リボルバーですから装弾数も期待できませんし」 「ふぅん。数ばらまけないのはきついわね」 威力だけじゃ勝てないってことか。 サラのマニアックな説明はそもそも理解する気が無いけれど、戦闘に関してはさすが武装神姫。私よりも知識が多い。 ・・・うん、この後バトルでもしてみようかしら。 どうせ暇だし、作戦を立てたり実力を図る意味でもバトルはしたいし。 「ねぇサラ。この後さ ――――――」 「ん? こんなところで何をやってるんだお前」 と、サラに話しかけようとしたら逆に後ろから誰かに話かけられた。 振り向くと・・・・そこにはなぜか白衣を着たお姉ちゃんが立っていた。胸ポケットにはノワールちゃんだけが入っている。 「え、何で白衣?」 「第一声がそれかね。これはバイトの仕事着だよ。それよりもお前、何でこんなとこいるんだ? サボりか」 「え、えと・・・・それはですね・・・なんと言うか」 まずいことになった。 そういえばここら辺はお姉ちゃんのテリトリーだったっけ。 ここで見つかってお母さんに告げ口されたら・・・・! 「ん・・・あぁ別に怒ってるわけじゃないんだよ。サボりなら私もよくやったさ。仲のいい三人組で遊びまわったもんだ」 そういってお姉ちゃんは笑った。 よかった。告げ口されたらどうしようかと。 「そっか・・・・そういえばハウちゃんはどうしたの? ノワールちゃんだけだけど」 「アイツは定期健診。今神姫用医務室にいるよ。それよりも、暇だったら一戦やらないか? 今バイトの方も暇だしな」 お姉ちゃんはサラの方をチラリと見ながらそう言った。 サラがどうかしなのだろうか。 「うん、いいよ。それじゃ筐体の方へいこう。・・・サラ、おいで」 「承知です」 断る理由の無い私達はお姉ちゃんの誘いに乗った。 戻る進む
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姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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入手条件 性格 声優 機体解説 性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント EXカラー 専用レールアクション用GC装備所持者 入手条件 F3大会優勝後に届く挑戦メール「タケルからの挑戦状」を確認後、ゲームセンターに登場する 「タケル」に勝利するとアルトレーネと共にショップに追加される。試合内容は1on2のハンデ戦。 (上記挑戦者が出現し勝利していない場合はF2大会終了後、ゲームセンターから消える) 勝利していない場合、F2大会に優勝することでもショップに追加される。 性格 やや扱いづらい ボクっ子 自身の性能に自信を持つがゆえに、マスターには何かと不安を見せ色々と指南を繰り広げる 小生意気でちょっと世話焼きな神姫。 声優 水橋かおり 機体解説 名称:戦乙女型MMSアルトアイネス メーカー 素体:Dione Corporation 武装:Arms in Pocket 型番:DI/AIP-001X2 2038年に開催されたコンテスト「ぼくらの神姫」(一般から武装神姫のアイデアを募集、競うもの)受賞作を元に ディオーネコーポレーションとアームズ・イン・ポケット社が共同開発した「アルトレーネ」(DI/AIP-001X1)の姉妹機。 本機はスモールボディならではの敏捷さを利用したバトルスタイルが特徴で立体的な戦術を得意とする。 機体各所に配置された強化クリスタルアーマー内にはそれぞれ小型コンデンサを内蔵。副腕部、脚部などへ独立した パワー供給が可能となり大柄なアーマーにもかかわらず高い機動力を獲得している。また特徴的なスカートアーマーは 展開して格闘用武器、変形して高機動用ウイングへと転用できる多用途なユニットとなっており、優れた攻守のバランスを 実現している。加えて頭部にはアルトレーネとは別タイプのバイザーを装備、脆弱になりがちなフェイス部の防御力を高めている。 性能的には申し分ないが性格の面ではやや扱い難いところもあり、マスターを選ぶ神姫と言えるだろう。 性能 能力値 LP SP ATK DEF DEX SPD BST 適正 S C A B B B B プラス補正アビリティ 攻撃力+1,LP+1 マイナス補正アビリティ SP-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード イベント +ネタバレ 発生条件 イベント名 備考 初勝利後 ニヤニヤしてる? Love4:ゲーセン勝利後 フルオープン Love7:自宅 カノジョいないの? Love10:ゲーセン勝利後 気になるブログ Love11:ゲーセン勝利後 丁寧な返答 Love12:ゲーセン勝利後 初対面 Love15:ゲーセン勝利後 デートに誘え 「バトルに誘う」を選択した場合バトル有(ロッテンマイヤー 小山田愛佳)敗北でも進行するが、勝利すれば称号(禍福の証)入手 『デートに誘え』終了ゲーセン勝利後 ファーストデート Love18:ゲーセン勝利後 セカンドデート Love20:ゲーセン勝利後 最後のデート EXカラー A.蒼髪(デフォルト) +ネタバレ B.金髪 C.紫髪 専用レールアクション用GC装備所持者 植場怜太 陰陽熊
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そこは。 意外なほどに広い空間だった。 「……」 部屋の中央には、黒衣の神姫。 忍者装束をモチーフにした装甲衣と背後に広がる漆黒の翼。 「……」 白脱した虚無を思わせる切りそろえられた銀髪。 そして。 「……ようこそ、5年越しの挑戦者達よ」 静かに降り積もる深雪を想起させる涼やかな声。 「土方真紀の武装神姫、フブキ。……だな?」 「ええ」 祐一の問に、静かに頷きフブキは背中の翼を広げた。 「私が、最後の『敵』です」 「……なるほど」 最早、祐一には全てが明白だった。 直に彼女と出会うまでは保留にしておいた問いに、最終的な解答が出る。 「アイゼン」 「……ん」 行くぞ。と、言うまでもない。 祐一のように、この状況を完全に理解した訳ではないだろうが、それでも彼女は彼の判断に疑問を差し挟みはしなかった。 「……」 無言のまま、アイゼンは無骨なザバーカを一歩前へと踏み出す。 「何も聞かないのですね?」 「負けるまで、答える気無いだろ?」 ふふふ。と幽かに笑い、フブキも同じく一歩踏み出す。 「話が早くて助かります」 「……」 フブキと、アイゼンとが、ほぼ同時にそれぞれの武器を構えた。 奇しくも双方、双刀。 アイゼンは何時ものアングルブレードに、大小組み合わせたフルストゥを副腕に持ち、近接戦に備えている。 対するフブキも刀型の剣を両手に一つずつ持ち、明らかに接近戦を意識していた。 「開始の合図は要るか?」 冗談めかして投げかけた祐一の問に、しかしフブキは神妙に頷く。 「お願いしましょう。……それが、貴方がたの流儀でしょうから……」 「……?」 アイゼンの表情に、一瞬だけ戸惑いのような物が生まれ、すぐにそれを押し殺す。 元より、余分な考え事をしながら戦える相手ではない。 「……それじゃあいくぞ。……ゲットレディ」 僅かに屈み、突進に備えるアイゼンとフブキ。 「―――GO!!」 そして、最後の戦いが始まった。 鋼の心 ~Eisen Herz~ 第35話:ネメシス 「―――砕!!」 先手は、当然のようにフブキ。 反応速度も、敏捷性も、移動力も。 凡そ『速さ』と区分できるあらゆる性能が、敵対するアイゼンの比ではない。 両腕を万歳するように掲げ、大上段から二本の刀を同時に振り下ろす。 ≪system“Accelerator”starting up≫ 対するアイゼンは、初手からアクセラレータ。 フランカーから移植された思考加速装置を起動、フブキに追従する反応速度を得る。 AIにかかる負担から、戦闘時間は大幅に短くなるが、コレ無しでは戦闘以前の段階で勝負にならない。 「……っ!!」 性能差の割には必要とする加速度が低い為にアイゼンを苛む頭痛も鈍いが、フブキに対しては、ある程度の事前情報があり、それなりに行動を予測できる為、この程度でなんとか対応範囲に持ち込める。 辛うじて副腕のナイフで双刀を外側に弾き、素体腕で持ったブレードを左右から挟みこむように振るう。 「…疾ッ」 即座にフブキがアイゼンの胸を蹴って離脱。 悪魔型のブレードは空を切る。 直前。 「……行けぇ!!」 そのまま、ブレードが前方に投擲された。 「ほぅ?」 軽く驚きながらも、フブキは双刀で投擲された2本のブレードを弾き飛ばした。 直後。 「む?」 更に、重なるように投擲された刃が4本。 アイゼンが、分解されたフルストゥを両の腕と副腕とで、すかさず射出したのだ。 「初手から武器を全て捨てるか!?」 だが、それぐらい意表をついた攻撃で無ければ、最強の神姫相手に戦いの主導権は握れない。 フブキは一瞬。 ほんの僅かな間だけ判断に迷う。 羽手裏剣での迎撃は、投影面積の薄い刃を打ち落とすには不向き。 かといって避けようにも、アイゼンを蹴り飛ばした直後で宙に浮いている状態では緊急回避は出来ない。 刀で弾こうにも、僅かずつタイミングをずらして投擲された刃は、まるで列車のように同じ軌道を時間差をつけて飛来するため、全弾弾く事は不可能。 ならば。 「防ぐまで!!」 体の前で翼を閉じて構成する分子機械を再配置。 堅牢な殻を形成しそれを盾とする。 ダダダダ、と刃が翼の表面に突き刺さるが、分子機械で多層構造を形成された防壁は貫通をゆるさない。 この時点でようやく、アイゼンを蹴って飛びのいた滞空から着地するフブキ。 刺さったナイフを振り落とす為に勢いよく翼を広げ、開けた視界に。 「……ふっ」 チーグルを振りかぶったアイゼンが居た。 「―――ッ!?」 悪魔型のモチーフに恥じない暴力的な威力の腕(カイナ)が、寸での所で身をかわしたフブキを掠め、空を切る。 極僅かに、爪の先が引っかかった胸部装甲が、しかしその圧倒的な腕力ゆえに大きく裂けた。 (……さすがストラーフ。パワーならば最新鋭の重量級神姫にも引けを取りませんね) 振り抜いたチーグルの勢いは止まらず、アイゼンは大きく姿勢を崩す。 フブキにとっては反撃を行う絶好のチャンスだ。 しかし。 「罠なんでしょう?」 フブキはそれに喰いつくほど浅はかではなかった。 「……ッ」 更に身を引いて間合いを広げたフブキの眼前を、ザバーカによる後ろ回し蹴りが擦過する。 またもやかすり傷を負うが、それを意に介さず、フブキは間合いを広げて仕切り直しを図った。 その選択が、祐一とアイゼンにとっては最も手痛い一手であると、フブキは確かに理解していたのだ。 ◆ 武装神姫を大雑把に両極化すれば、重量級の『パワー型』と軽量級の『高速戦闘型』に分類される。 大きく、重い方がフレームの強度を上げる事ができ、それに伴ってパワーも向上する。 更には自重そのものが、打撃の威力と密接に関わる質量を上げる為、攻撃力は更に向上。 結論から言えば、神姫の重量と腕力はほぼ正比例の関係にあるのだ。 即ち。重いと言う事は強いと言う事だ。 即ちこれこそが重量級神姫のコンセプトに他ならない。 では。 対する軽量級神姫のメリットは何処にあるのだろう? 当然の如く予測されうる答えは『速さ』だろう。 だがしかし。 それでは誤りではない、だけで。正解でもない。 何故ならば、時として『重い方が速い』事もあるからだ。 神姫を例に挙げるなら、アーンヴァルとエウクランテが判りやすい例だろう。 共に飛行タイプの軽量級神姫に分類されるが、実際にはアーンヴァルの方が全備重量はかなり重い。 しかし。最大速度はアーンヴァルの方が圧倒的に速いのだ。 理屈から言えば、エウクランテではアーンヴァルに追いつけない。 ……が、実際の戦場ではむしろエウクランテの方が速さを武器とするのである。 何故か? その答えは『加速力』にある。 仮にエウクランテの最大速度を30、アーンヴァルを50として考えてみよう。 共に最大速度を出している状況では、エウクランテはアーンヴァルに及ばない。 だが、静止状態からの加速勝負なら話は変わる。 アーンヴァルが2秒ごとに10ずつ速度を上げるとしよう。 その場合、最大速度である50に達するのは10秒後。 しかし、エウクランテが10速度を上げるのに要する時間が1秒なら、最大速度である30に達するのは3秒後。 同時にスタートしたのならば、3秒後のアーンヴァルの速度は僅か15、エウクランテの半分に過ぎないのだ。 そして、乱戦中に10秒もの間直進、即ち最大加速をする機会はまず無い。 攻撃のため、回避のため、位置取りのため。 戦闘機動とは急緩が複雑に絡み合う物だからだ。 故に。 軽量級神姫の強みとは、即ち加速力。 如何に短い時間でトップスピードに乗り、そして減速出来るかが性能の優劣を分ける。 そして、それを行う為に最も邪魔になる物が『重さ』なのだ。 逆説的に言えば。『軽量級』神姫とは、速さを求めたが故に『軽く』ならざるを得なかった神姫とも言える。 それを知っている神姫とそのオーナーは、その為に、如何に自重を削るかを命題とする。 無論、装甲は極限まで切り詰める。 武器も必要な分だけあればいい。 速度を得る為の推進器も暴論を言えば、無いほうが良い位なのだ。 そして、そのバランスを如何に取るかがオーナーの見せ所とも言える。 装甲が過剰になれば、速度は目に見えて落ちるし、かと言って、無装甲では爆風や破片と言った避わしようの無い攻撃で致命傷を負ってしまう。 武器も過剰な装備は重さに直結するが、足りなければ敵を倒しきれない。 速度を得る為の推進器も、神姫素体に頼るのか、外付けの推進器を装備するのかで戦闘スタイルそのものが大幅に変わる。 斯様に軽量級神姫の扱いは難しい。 武器、装甲、速度。 このバランスを如何に取るか、最終的な結論は恐らく永遠に出ないだろう。 故に、軽量級神姫のオーナーたちは自らの最適解を目指し邁進する。 各々の解答を以って戦いに挑みながら……。 ◆ そして、原初の軽量級神姫のオーナーであった土方真紀は。 その解答をこう出した。 ◆ 「……自己修復……か。冗談みたいだな……」 「……ん」 チーグルとザバーカで付けたボディの傷が、二人の見ている前でフィルムの逆回しのように消えてゆく。 四本ものナイフが突き刺さった翼も、だ。 「私の装備は全てが分子機械(モレキュラーマシン)です」 彼女の装備、即ち。翼と装甲衣、そして双刀。 「何れも必要に応じて組み替えることで、多様な性質を帯び私の機能を補佐します」 鋭く高質化する事で刃に。 柔軟に風を孕む事で翼に。 幾重にも積層される事で鎧に。 言ってしまえば、フブキの装備は『分子機械のみ』だとも言える。 それ一つが多様な役目を果たすが故に。 「……一応言っておきますが、先ほどの攻撃も無意味ではありませんよ。私の装備を構成する12万の分子機械の内、数百は機能停止しましたから……」 「一応ストラーフの打撃は、掠めるだけでも軽量級神姫なら数発で戦闘不能になる威力なんだけどね……」 だが、フブキの外部装甲は修復が効く。 つまり小手先の小技や、アーマーから破壊して爆風でトドメを刺すような搦め手はほぼ無意味と言う事だ。 「……やっぱり、体の正中線をぶん殴るか、キャノンを直撃させるしかないと思う」 「だな」 「……もちろん、私もそれを警戒しているのですけどね……」 言ってフブキは軽やかに一歩飛びのく。 広げた間合いは、アイゼンにとっては格闘装備の使えない中距離以遠。 元より単純に撃った滑空砲が当たる相手では無い。 ならば、使用するべきは……。 「アイゼン!!」 「……ん」 抜き打ち気味に構えたアサルトライフルで発砲!! フルオートで弾幕を張り、半呼吸ほど遅らせて左右に滑空砲で榴弾をばら撒いて置く。 ライフルをかわす為に左右に避けたのならば、榴弾の爆風で巻き込める。 そうでなければ蜂の巣だ。 ……並みの神姫ならば。 「アイゼン、上だ!!」 「……ッ!!」 瞬時に跳び上がったフブキが、空中で翼を使って方向転換、即、加速!! アイゼンの頭上をキックで狙う。 「……このっ」 合わせる様にチーグルを突き出し、カウンターを狙うが、フブキは全身のバネと翼を使って衝撃を殺し、鋼鉄の拳の上に着地。 「ふっ」 振り抜かれ、伸びきった腕が弛緩する一瞬にあわせ、引き倒すように後方へと蹴る。 「……え?」 爪先から、鋭利な爪が伸び、チーグルを捕らえていた。 伸ばした腕を更に引っ張られたアイゼンが、重心を崩してつんのめる。 驚愕で見開かれた眼前に。 「ごめんなさい」 フブキの足爪が突き刺さった。 「―――アイゼンッ!!」 頭の奥のAIを守る為に、殊更堅牢に作られている頭蓋を引っ掻く音がした。 アイゼンの顔面を削るように振り抜かれたつま先には、湾曲した爪が三本。 その一つが、彼女の左目の位置を抉っていた。 「……ッ、く……」 アイゼンは左目を押さえ、よろめきながらもチーグルを振り回しフブキを追い払うが、しかし。 「アイゼン!! 大丈夫か!?」 「……問題ない、大丈夫。……左目取れただけ」 「だけ、じゃねぇ!!」 神姫センターのバトルなら、敗北をジャッジされるダメージだ。 だが。 「まだ敵は見えてるし、武器もある。……全然余裕」 「……っ」 祐一は一瞬判断に迷った。 元々、彼にはここまでするつもりは無い。 フブキを倒す為に、これほどの代価を払う必要性を、実の所まるで感じていない。 (試合ならコレで負けだし、普通に考えれば戦闘を止めるべきだけど……) 後続にはカトレアもいれば、他の神姫たちもこちらに向かっているかもしれない。 ここで、無理をしてアイゼンだけで倒す必要は、必ずしも無い。 だが……。 「……まだ大丈夫。……やらせて」 アイゼンには、撤退の意思は微塵も無かった。 ◆ 神姫バトルを始めてから5年。 四肢を破壊されるような大ダメージが無かった訳ではない。 だが、神姫にとって手足はある意味では『装備』だ。 交換も容易だし、必要に応じてチーグルなどを直に接続する場合もある。 だが。 頭部は違う。 それは不可分の『本体』。 破壊されたら、『死ぬ』部分なのだ。 そこに、これほどのダメージを負った事は一度も無かった。 当然だ。 フブキは、今までに戦ったどの神姫にも増して強い。 だから。 ……だからこそ。 ◆ 「……ねぇマスター。今、どんな気分?」 「……」 アイゼンの問に答えを探す。 だが、早鐘のような鼓動と焦燥に思考は乱れ、まるで纏まらない。 「……ね、マスター」 「心臓バクバク言っててそれ所じゃないよ」 「……ん。じつは私も」 こちらの会話を待つ心算なのか、動こうとしないフブキを見据えたままのアイゼンが背中越しに語る。 「……なんか。勝てるって確信が無いし、負けちゃうかも、って凄くドキドキしてる」 私に心臓は無いけど。と、続けた後。 「多分、CSCか何処か。……凄いオーバーワークでチリチリするの。 ……マスターもきっと同じだよね?」 「ああ」 深く考えずに、その余裕も取り戻せないままうなずく祐一。 「……でもさ、それ。マスターはよく知ってる感覚だよね?」 「え?」 「……好きでしょ?」 「……あ」 思い当たる。 「初めて敵と戦うとき。 凄く強い敵相手にピンチになった時。 絶体絶命で、でも。 ……まだ、勝ち目が残ってて、諦めきれない時……。 いつも『こう』だよね?」 RPGで。 シューティングで。 対戦格闘で。 ……武装神姫で。 遊んだ後に、一番楽しいと思い返すのは、何時だってギリギリの極限の瞬間を、だ。 「……なら」 「今が一番、『楽しい』状況……。だね」 「……ん」 そうだ。 まだ、負けた訳じゃない。 形勢は言うまでも無く不利だし、勝ち目は薄いけど。 皆無ではない。 「……一応聞いておくけど、まだ戦えるよね?」 「……当然」 言って、両の副腕を握りなおすアイゼン。 「よし。……ならもう一度だ」 「……ん」 答え、祐一のストラーフは微かに身を落とし、構えなおす。 「頼むぞ、アイゼン!!」 「……指揮は任せた!!」 答え、応え。 アイゼンが飛び出した。 ◆ (なるほど。……コレが本当の目的ですか) 気付いた彼女が密かに笑う。 (本当に、回りくどくて不器用なやり方です) 彼女を支配する感情は紛れも無くそれ。 (ですが、それでこそ私のマスターです) 主と共にあると感じた神姫が得る感情は、歓喜に他ならない。 ◆ アイゼンの突進に、フブキは全力を以って応じた。 左右に大きく腕を広げ、刀と翼を触れ合わせる。 分子機械を翼から刀に大幅に移し、武装を強化。 質量を増した分威力が上がり、重くなった分遅くなった剣速を翼で弾き出す事で補い、更に上乗せする。 「……行きます。―――奥儀『双餓狼』ッ!!」 暴風すら伴いながら、アイゼンを迎撃するのは左右からの同時斬撃。 対するアイゼンは左右のチーグルを刃に合わせる。 しかし、左右は逆に。 眼前で交差した副腕は、その距離を余力とし、圧倒的な一撃を柔らかく受け止める。 もちろん、勢いを完全には殺しきれない。 だが、その一撃がアイゼンに到達するのがほんの一秒ほど遅らせる事には成功した。 しかし、たったの一秒だ。 それはたった一秒敗北を後伸ばしにするだけの行為。 両腕を緩衝材に使い、塞がれてる以上、他に打つ手は無い……。 ……普通の神姫なら。 「けど。私の腕は、四本あるっ!!」 完全にフリーになっている素体の両腕。 それが届くのに必要な時間は一秒。 たったの一秒だった。 そして。 その一秒で充分だった。 装甲衣の襟首を掴んで全力で引き寄せる。 剣の間合いを越えるどころか、拳の間合いの遥かに内側まで。 「……つかまえた!!」 「―――なっ!?」 引き寄せられた顔面に、アイゼンもまた顔面をぶつけ、それを以って打撃とした。 「へ、ヘッドバット!?」 さしものフブキも、予測していなかった攻撃に面食らう。 素体の運動性ではフブキに分があるが、頑強さならストラーフの方が上。 更に、開いた右腕で追撃の拳。 「捕まえての殴り合いなら、ストラーフに敵う神姫は居ない!! 例えフブキでも、だ!!」 如何に破格の性能を誇ろうが、フブキは軽量級神姫だ。 打撃の速度を上げる事で、攻撃の威力を増すことは出来ても、純粋な腕力ではストラーフに及ばない。 足を止めた超至近距離での殴り合いならば、軽量級の神姫は重量級の神姫に絶対に勝てない。 「させません!!」 組合から離脱しなければ敗北すると判ったのだろう。 フブキは狙いを襟元を掴んでいる左腕に絞った。 だが、しかし。アイゼンにも逃すつもりは毛頭無い!! 「捕まえろ、アイゼン!!」 「……ん!!」 巻きつくように背中に回されるチーグル。 構成する分子機械の大部分を刀に委譲してしまった翼に、それを防ぐだけの力は無い。 更に、素体の両腕で抱きしめるように捕縛。 そのまま全力で締め上げる。 「べッ……、ベアバック……!?」 ギリギリと、締め上げられてゆくフレームが音を立てる。 「締め落せ!!」 「……っ!!」 こうなっては、最早脱出は不能。 アイゼンの勝ちが確定したようにも見えた瞬間。 「―――空蝉!!」 腕から掻き消えるような感触と共に、フブキの身体が理不尽な動きで戒めから離脱した。 一瞬で宙に逃れ、後ろに跳び退く忍者型神姫。 「……忍法?」 「装甲衣の分子機械を膨張させて脱ぎ捨てたのですよ。……脱ぎ捨ててしまう為、一度きりしか使えない手段ですが、もう二度と捕まらなければ良いだけの事」 確かに。装甲衣を脱ぎ捨てたフブキには、最早それを再構築し直すだけの分子機械が無い。 装甲衣だけでは不足だったのだろう。刀も翼も装甲衣と纏めて脱ぎ捨てた為、最早素体しか残っていない。 12万もの分子機械群は、フブキの身体を離れて無力化された。 もちろん再掌握する事で復帰は出来るが、1分ほど時間がかかる。 そして、それが戦闘中に不可能であることは明白だった。 ◆ 「……取りあえず、装備は奪えた、と。……これでようやく五分五分、かな?」 「……だね」 全ての武装を失ったフブキには、最早アイゼンに捕まる危険のある近接戦以外の選択肢が無い。 一方でアイゼンも、遠距離戦になってしまえば射撃で命中は見込めないため手詰まり。 故に、双方格闘戦以外の選択はありえない。 武装を全て失ったフブキに対し、アイゼンは未だにチーグルを始めとする機械化四肢を持っているが、素体の性能自体は数段下。 更にフブキの速度に対応する為にアクセラレータでAIに負荷を掛けているので、実際の戦闘時間は後数分。 加えて先ほど負った左眼の損傷を考慮すれば、実際には遥かに不利だ。 しかし、その差は、確実に戦闘開始時よりも狭まっていた。 そして何より。 (ペースを掴まれたのが厄介ですね……) フブキはそう思考し、目の前の相手の戦績を思い出す。 アイゼン。 そう名づけられたストラーフの真価は、実の所、よく言われるような再戦時の勝率ではない。 一言で言ってしまえば、彼女の恐ろしさはペースを掴む事にある。 相手の得意技を無効化し、頼りとする防御や回避を越えて一撃を与えてくる戦闘スタイル。 それがどれほど困惑を生むかは、実際に相対した神姫とオーナーでなければ分らないだろう。 強い神姫には例外なく得意とする戦術、戦法がある。 何も考えず、ただ強い武器を装備するだけでは精々、初心者相手に圧勝できる程度だ。 中級者には打ち破られ、上級者には片手間で粉砕される。 故に、強い神姫とは確固たる戦術、戦法を見出した神姫であり、それに特化し、予測されうる弱点をカバー出来た者こそが強者として名を馳せるのだ。 だから。 それを磨けば磨くほどに、打ち破られた時の衝撃は大きい。 そして、アイゼンはそれをする数少ない神姫だった。 (すでにこちらの武器である素早さと分子機械を破られました) アクセラレータという強引な手段を用いねばならなかったのは、もはやハンディキャップと言っても過言ではない反応速度の遅さゆえにだろう。 だが、経緯は如何あれ既にこちらの動きは概ね見切られている。 最早素早さだけで翻弄することは不可能だろう。 (分子機械もそれごと握り潰すと言う強引な方法で突破されましたし……) 分子機械の暴走を想定した緊急パージコマンド『空蝉』が無ければ、アレでフブキの敗北は確定だった。 フブキとストラーフの埋めようの無い腕力の差。 それを前面に押し出した文句の付けようの無い攻略法。 咄嗟に空蝉で逃れてしまったが、本来空蝉は戦闘用の動作ではない。 仕様として用意されてはいたが、それを勝利する戦術に組み込んでいた訳ではないのだ。 つまり。実を言えば、あのまま破壊されても良かったと思う位見事に、祐一とアイゼンのペアは『フブキ』という神姫を攻略していたのだ。 そして何より。 (切り札を卑怯とも言える手段で返されたのに、プラス要素だけを認識して即座に戦意を取り戻す切り替えの早さ) 神姫にとって最高のパートナーとなる素養を充分に持っているオーナー。 そして、それに応える神姫というペア。 真紀が邂逅を望み、果たせなかった相手。 それが今、目の前に居る。 「ふふふ」 それが。 たまらなく嬉しかった…。 ◆ 「お見事ですね、戦術の堅実さ、思考の柔軟性、装備の選択。……何れを取っても申し分ありません」 「あまり万人向けじゃない気もするけどね」 「……ん」 コクコクと頷くアイゼン。 「無難に、スタンダードな、などと言うコンセプトでは私には勝てませんよ」 射撃も格闘もこなし、回避もガードも選択しうる。 それではフブキと同じコンセプトだ。 その上で、現行の技術には無い分子機械を擁するフブキに一段劣る技術の同コンセプトでは勝てる筈も無い。 「……だから、その選択は正解です。私は分子機械と言うチートで成立した最強の神姫なのですから『万人向け』のコンセプトでは話にならない」 自らをズルであると認めた上でフブキは問う。 「……しかし、貴方がたはその最強を突破しました」 フブキを最強たらしめていた分子機械を打ち破った。 「しかし、その代価は貴方がたにも軽くはないでしょう?」 アイゼンのダメージは大きく、AIにもアクセラレータの負荷が重く圧し掛かっている筈だ。 「一応問いますが、ここで引く気は無いのですね?」 もちろん。 フブキにはその答えが分っていた。 「当然だ。……折角、最強の神姫が相手なんだ。……最後の最後まで楽しませてもらう」 「……ん」 こくりと、頷いてそれを肯定するアイゼン。 「……。……ふふ」 軽く、全身から力を抜くフブキ。 「……いいでしょう。かかってきなさい、悪魔型!!」 「……往く」 こうして、三度目の仕切り直しから。 こんどこそ最後の勝負が始まった。 ◆ 打撃。 打撃。 打撃。 双方、拳を中心に打撃の応酬を繰り広げるが、そのスタイルは別物だった。 牽制打を連続で繰り出し、渾身の一撃を打ち込む隙を作り出そうとするフブキに対し。アイゼンは大振りながらも必殺の一撃を確実に繰り出してゆく豪放なスタイルで応じる。 蹴りはどちらも存在だけ匂わせ、実打は撃たない。 格闘技において、蹴りは威力以上にデメリットが大きい。 振り上げた脚を捕らえられれば、その時点でほぼ敗北は必至。 脱する為に必要な実力差より、蹴りを使わずに相手を倒す方が力量が要らないのだ。 そして、双方にそこまでの実力差は無い。 素体と武装状態とは言え、確かに性能ではフブキが勝る。 だが、しかし。 5年と言う歳月を待機して待っていたフブキと違い、アイゼンには1週と置かずに繰り返してきた戦闘経験がある。 間合いの取り方、外し方。 打撃の使い分け。 そして、打撃以外の投げや掴みと言う選択肢の存在。 この場の誰もが気付かなかったが、それは実の所、武術家と猛獣の戦いだ。 基本性能を武器とする猛獣に対し、技で応じる武術家。 それは、アイゼンとフブキの戦いと同じ傾向を持っていた。 そして、唐突にアイゼンが打撃を変える。 今までの重い一撃から、フェイントも同然の軽い一打。 しかし、予備動作なしで繰り出されたそれは、確かにフブキの身体を捉え、一瞬浮かせる。 そこに。 今度こそ必殺の意思を込めた一撃が打ち込まれた!! 「…!!」 フブキの反応は速い。 撃ち込まれた機械腕の右ストレートに身体を絡み付かせ、そのまま一気に腕を奪いに行く!! ダメージは決して軽くないが、彼女の反応速度は寸での所でその打撃を察知し、身を引いて威力を殺している。 フェイントにかかって居なければ無傷で反撃できただろうが、それでもこの一撃で決めるつもりだったアイゼンの意図は外せた。 ならばこれで詰み。 身体全部を使ってチーグルの右肘に加重をかける。 「……このっ!!」 アイゼンが左拳でわき腹を狙うが、それより早く、フブキの膝がチーグルの肘をへし折った。 「……っ!!」 ダメージに怯んだ一撃ではフブキを吹き飛ばすのが関の山。 致命打には程遠く。 しかし、アイゼンは迷わず追撃を掛ける。 「……行け、アイゼンッ!!」 着地の硬直で避けられないフブキに、アイゼンは片腕を失ったチーグルとザバーカをパージ。 その勢いを加速に利用し渾身の右ストレートを放つ。 「……これで―――」 それが当たる直前。 フブキが消えた。 「―――!?」 知覚が追いつかない。 拳をかわしたフブキが、姿勢を崩したアイゼンに密着するように両手を重ね。 「―――破」 発勁。 横合いから放たれた衝撃に、自分の受けた技を認識する事も出来ず、アイゼンは吹き飛ばされた。 これが決着。 戦闘開始から15分ジャスト。 敗因は、アクセラレータの時間切れだった。 第36話:伏せられた真実?につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る フブキ付き黒い翼の発売でようやくウチの(実質)ラスボスが日の目を見ました。 これの発売予告以前からフブキ+黒い翼でイメージしていたので嬉しい事、嬉しい事。 本編の方も、書き溜めてあるのでココから先は更新早めでいけると思います。 宜しければ、後もう少しだけお付き合い下さい。 と言いつつポケモンとかモンハンとか鉄の咆哮とか……。 もうすぐルーンファクトリー3出るし、世界樹Ⅲも発表だぁ!! 来年もきっとゲームが楽しい。 ALCでした~。 -
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左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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武装神姫のリン 第12,5話「進化の予兆」 これは俺とリンが小さな挑戦者を迎える前日の話である。 「う~ん……これはダメか」 「ダメですねぇ」 「じゃあ、こっちは?」 「コレもちょっと違和感が…」 「あーーー これで終わりか……」 俺とリンは戦闘スタイル、技に変化をつけるべくエルゴに行ったのだが、良いものが無く結局流通向けの神姫向け装備のカタログに目を通しきってしまった… 「だめかな??」 店長が話しかけてくる。 このエルゴの品ぞろえの豊富さ(数もさることながら厳選されていて、かつ比較的リーズナブルな品)を持ってさえ解決のしようが無い。 今回のお目当ては「空戦装備」 セカンドリーグともなると空を飛べないというストラーフでは当たり前のことでさえ戦闘での不安要素になってしまう。 例えばホーミングミサイルを次々と避けるのはステップだけではどうしても限界がある。 結果、ミサイルや射撃武器を扱う「やり手」が相手の場合は5割の確率でこっちが距離を詰める前に結構なダメージを負ってしまう。 なので思い切って飛行できるパーツを追加しようと思ったんだけど…カタログにはリンの好みに合うパーツが無かった。 アーンヴァルのユニットは直線方向には絶大な推進力を誇るがどうしてもユニットが大きめになるうえ、熟練しない限り小回りは期待できない。 今までのリンのスタイルはレッグユニットのばねを生かしたステップや宙返りなどで敵を翻弄する戦い方だ。 だから空戦でも膨大な推進力が必要なわけではなく、どちらかというとジャンプを補助する瞬間的な加速だ。 なので既存のパーツでは条件に合うものが無いという現状だ。 まあ個人ディーラー系なら条件に見合ったパーツも見つかるかもしれないが、高価だし破損時の保証が無い。 保障があれば格安で修理してもらえるが、保証がないと修理でも新品の6割ほどのお金が掛かる。これはリーグで闘う上で重要だった。 「う~んなかなか無いものだね~ 普通にコレをいれば見つかると思ったんだけど…」 店長もあきらめムードだった。 俺も朝から何時間もカタログとにらめっこを続けていたためか、結構肩がこってたりする。 まあそこは今リンがほぐしてくれてるんだけど 「今回はあきらめて改めてネットで情報収集してはいかがですか?」 肩のコリをひざた足を使ってほぐしながらリンが提案する。 「まあ、しょうがないか…」 そうしてエルゴを後にした。 とソコに電話が。表示を見ると係長と出ている。今日は休みなんだけどな。と思いつつ通話ボタンを押した。 「はい、藤堂です。」 「お、今日は早いな。」 「用件はなんでしょうか?」 「ああ、先日君が契約を取り付けた会社なんだが、君の提案したユニット内部のパーツだけじゃなくて神姫の装備品販売も視野に入れているとことらしい。で近々もう1度君と話をしたいそうだ」 「そうですか…分かりました。どうも」 何気なく電話を切りそうになったが俺はそこでピンと来た。 「あ、すみませんけどあちらさんの会社の方がいまそっちにいたりするんでしょうかね?」 「ああ、電話じゃなくて直接ウチの来てくれたよ。で君が休みでちょっと落胆してるな」 「分かりました30分ほどで行きますので、すみませんがよろしくお願いします」 「おい、来るのか? 仕事熱心だねぇ わかった伝えておくよ」 いそいで電話を切ると俺はリンを連れて走り出した。 そうしてすぐさま家に帰って、スーパーに出かけてる茉莉とティアにメモを残し、スーツに着替えてリンにはフォーマルっぽい服を着せて愛車を駆って会社へ向かった。 高速を使って会社へは20分ほどで到着。 そして俺は取引先にあるプランを持ちかける。 それは「島田重工製MMSの強化ユニット販売」だった。 具体的にはアーンヴァルとストラーフに一番効果の出る強化ユニットを製造し島田重工のライセンスをもらって販売するというわけだ。 島田重工の承認があればかなり大規模な展開が可能である。たしかに承認を取り付けるのは難しいと思うができればそれは大きな力になる。 強化ユニットの案はかなりの数が頭の中にあった。 というのもバトルをはじめてからというもの、エルゴに行く前から量販店では必ずリンに合うパーツを探すことを日課としていたためだった。 まあ捜索の結果は毎回散々だったけど… この強化ユニットのプランを取引先も善処するということで今日は話を終えた。 その数日後、小さな挑戦者たちに初めて「烈空」を破られてしまった俺たちはトレーニングに励んでいた。 リンに向かって無数のミサイルが飛来する。 しかしリンは銃はおろかナイフ1本でさえ持っていない。 「そこ、バックステップから跳躍!」 「はい!」 「ランダムに連続ステップ!」 「!」 「そこだ、さいたまっは!!」 「ええぃい!!」 ディスプレイ上にはミサイルの着弾ギリギリから地面を滑るかの様に移動するリンの姿。ミサイルは誘導が切れて地面に着弾。次々と誘爆していった。 そうだ、次に俺たちが目指したのはあるアーケードゲームのテクニック。 その名も「さいたまっは」 詳しい説明は割愛しようw 現状の装備で敵のミサイル等の誘導の高い攻撃をできるだけ回避するために会得した技術だ。 まあこれはバーチャル限定なんだけど…セカンドなら通用すると思う。 そこに電話が、相手は取引先 「もしもし、藤堂ですが…」 「休暇中にいきなりですみません。」 「いえいえ、で話とは?」 「あの件なんですが…話はけっこうすんありと行きまして、島田重工さんはトライアルにあなたの神姫を使いたいそうです。」 「な、本当ですか?」 「はい、なんでも強化パーツは島田さん所でも近々プランを立ち上げようとしていた所だったらしいです。で強化のコンセプトもほぼ同じらしくトライアルで結果が出せれば藤堂さんのプランをそのまま採用するとのことです」 「分かりました、近く返答をしますと伝えてください」 俺は震えを押さえて電話を切った 「マスター?」 俺の様子を不思議に思ったリンが首をかしげる。 俺はそんなリンをいきなり抱きしめた。 「ちょっ、い、いきなりはダメですぅ」 「すまない、舞い上がっちゃって」 「で、なんだったんですか?」 「ああ、リンにも空が飛べるようになるって」 「本当ですか! でも飛ぶだけなら…」 「安心しろ。お前…というかストラーフに合った高機動型のユニットだ。」 「でもトライアルって」 「俺はリンのことを信じてる。お前も俺を信じてくれれば必ず結果は出るさ」 「マスター」 「明日からがんばるぞ!!」 「はい!」 そうして日が暮れていく中を俺はリン肩に乗せて歩く。 しかしそのパーツを別の場所で使うことになるとは、俺たちはそのときは全く考えもしなかったのだ。 燐の13 「進攻」